パン・デ・ローPão de ló レシピ
Pão de lóパォン・ドゥ・ロ

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パン・デ・ローは、卵と砂糖を長い時間泡立て、ほんの少しの小麦粉を混ぜて焼く、ポルトガルのスポンジ菓子です。ここで作る配合には、バターも牛乳もベーキングパウダーも入りません。ふくらませるのは、泡立てた卵の泡だけです。
ポルトガルでは、いくつもの町がそれぞれ名物のパン・デ・ローを持っています。ここで作るのは、北部の町オヴァールのものにならった「オヴァール風」です。卵黄をたっぷり使い、紙を敷いた型で焼いて、中心をとろりとした半熟に残します。家庭の直径21cmの金属の丸型で焼きます。
パン・デ・ローとは
ポルトガル語のつづりは Pão de ló です(1990年の正書法の協定より前は、ハイフンでつないでいました)。パン(pão)は「パン」の意味ですが、ローが何を指すかは、はっきりしていません。ポルトガルの新聞オブセルヴァドールの記事は、考案したドイツの菓子職人「ロット」の名から来たという説と、昔、菓子を覆うのに使った薄い布の名だという説の、二つを紹介しています。どちらが正しいかは、記事も決めていません。
オブセルヴァドールの同じ記事は、パン・デ・ローを、どこにでもある菓子でありながら、アロウカ、アルフェイゼラォン、オヴァール、マルガリーデの名物でもある菓子としています。ポルトガルのレシピ記事では、復活祭やクリスマスの菓子としてもよく取り上げられます。土地によって、ふんわり乾いたものから、中が液状に近いものまであります(後半の「地域による違い」で紹介します)。
修道院の伝承と、オヴァールの半熟タイプ
ポルトガルの料理雑誌テレクリナーリアは、パン・デ・ローの歴史を18世紀の修道院の菓子づくりにさかのぼるものとしています。修道院では卵白を衣類の糊づけに使い、余った卵黄で菓子を作った、と伝えられています。
オヴァールのパン・デ・ローは、2016年に、EUの保護地理的表示(IGP。特定の土地で決まった作り方で作ったものだけが名乗れる)に登録されました。登録の申請でEUの官報に載った文書(単一文書)は、地元の司祭の記述として、1781年の聖週間(復活祭の前の週)の行列で、聖具を運ぶ司祭への贈り物にされた記録を挙げ、18世紀の終わりから作り続けられてきたとしています。ポルトガルのニュースサイト、24ノティシアスによると、材料は卵(主に卵黄)と砂糖と小麦粉で、白い紙を敷いた型で焼きます。皮は薄く、少ししっとりした茶色がかった金色で、中もしっとりしています。小さく焼いたものは「インファンテス」と呼ばれます。
単一文書によると、本来のオヴァールのものは、赤か黒の、土を焼いて作った型に紙を敷き、140〜200℃のオーブンで50分〜2時間かけて焼きます。中心はクリーム状で、切ると流れ出すこともあります。ポルトガルの郷土料理を紹介するサイト、ノー・ポントも、この湿り気は焼き足りないせいではなく、土の器を使い、時間をかけて焼くことで生まれるとしています。一方、エコノミスタの家庭向けのレシピは、金属の丸型を使い、180℃で35分と短く焼きます。中心に刺した竹串がぬれて出る状態、つまり中心だけを半熟に焼き残して、卵のクリームのような中心に仕上げます。この記事のレシピも、この焼き方による「オヴァール風」で、土の型でじっくり焼く本来の作り方とは違います。
この記事の配合
テレクリナーリアと、ポルトガルの生活情報サイト、エコノミスタのオヴァール風のレシピをもとにしました。2件とも、卵黄11〜12個と全卵2個に、砂糖200〜220g、小麦粉80gと、卵に比べて粉がとても少ない配合です。この記事では、テレクリナーリアの直径23cmの型の配合(砂糖は2件の中間の210g)を、直径21cmの型に面積の比で直しています。
2件の家庭向けレシピは、どちらもベーキングパウダーを小さじ1加えています(エコノミスタは、粉もベーキングパウダー入りのものです)。この記事では入れていません。単一文書がオヴァールのものの原料を、卵(主に卵黄)・白い砂糖・小麦粉と、好みで加える塩とし、膨張剤を挙げていないためです。
パン・デ・ローのレシピ:材料(直径21cmの丸型(深さ6cm以上)1台(8切れ分))
生地づくり 35分(ほかに、卵を室温に戻す30分と、型のまま冷ます時間が1時間30分〜2時間)焼き 28〜35分(中心まで焼くときは、さらに8〜12分が目安)難しさ ふつう
生地
作り方
材料と型を準備する
卵は冷蔵庫から出して30分ほどおき、室温に戻す。卵を割って卵黄だけを取り分け、180g(Mサイズ10個分)を量る。別の卵を溶いて、全卵85gを量る。薄力粉67gは一度ふるっておく。型の内側にバター5gのうち半量を薄く塗り、40cm角のクッキングシートを、中央を底に押し当てるようにして、ひだを寄せながら型に沿わせる。紙は縁から3〜4cm上に出す。紙の内側に、残りのバターを薄く塗る。
卵と砂糖を泡立てる
オーブンを180〜185℃に予熱し始める。大きめのボウルに卵黄180g、全卵85g、グラニュー糖175g、塩1gを入れ、ハンドミキサーの高速で15〜20分泡立てる。白っぽく、もったりとふくらみ、ミキサーを持ち上げると生地がリボンのように折り重なって落ち、跡が2〜3秒残るまでにする。指先に生地をとってこすり、砂糖のざらつきを感じなければよい。
粉を混ぜる
薄力粉67gを3回に分けて、ふるいながら生地の上に落とす。そのつどゴムべらで、ボウルの底からすくい上げて返すように、大きくゆっくり混ぜる。ハンドミキサーは使わない。粉が見えなくなったら、すぐに混ぜるのをやめる。
焼く
生地を型に流し入れ、表面をゴムべらで軽くならす。180〜185℃のオーブンの中段で28〜35分焼く。表面が濃いきつね色になり、縁のあたりを押すと弾力があり、型の縁から3cmほど内側に竹串を刺して生地がつかなければ焼き上がり。中心は、型をそっとゆするとゆれ、竹串を刺すとクリーム状の生地がつく状態でよい(中心を半熟に残すのがオヴァール風)。小さな子ども、高齢の人、妊娠中の人、体調のすぐれない人が食べるときは、中心まで火を通す。170℃に下げて、表面が焦げそうならアルミホイルをかぶせ、さらに8〜12分を目安に焼く。中心に刺した竹串に生地がつかなければ焼き上がり。つくときは3〜5分ずつ延ばす。
型のまま冷ます
焼き上がった型はとても熱いので、ミトンをして取り出し、網にのせる。型に入れたまま、1時間30分〜2時間、完全に冷めるまでおく。冷める途中で中心がへこむが、それでよい。冷めたら紙ごと型から持ち上げて出し、紙をつけたまま切り分ける。半熟の中心はスプーンですくって食べる。半熟に焼いたものは、冷めたらなるべく早く食べ、残りはすぐに冷蔵庫に入れる。
紙をつけたまま切り分け、とろりとした中心はスプーンですくって食べます。濃いめのコーヒーとよく合います。
料理科学:卵の泡だけでふくらませる
共立てで長く泡立てる理由
卵白と卵黄を分けずに、まとめて泡立てる方法を「共立て」といいます。ここでは全卵に卵黄をたっぷり加えたものを泡立てます。卵黄には脂肪が多く、脂肪は泡の膜を弱めるので、卵白だけのメレンゲに比べると泡立つのに時間がかかります。ポルトガルのレシピが、ミキサーで15〜20分と長く泡立てるのも、このためと考えられます。
砂糖は、卵の水分に溶けて液を粘らせ、泡の膜を流れにくくします。料理科学者のハロルド・マギーは、砂糖が泡を安定させ、すぐにはしぼまない泡にすると説明しています。砂糖のざらつきが消えるまで泡立てるのは、砂糖をしっかり溶かして、この働きを生かすためです。卵を室温に戻しておくと、冷たいままより早く泡立ちます。
オーブンに入れると、泡の中の空気が温まってふくらみ、生地の水分の一部が蒸気になって、さらに押し広げます。そのあいだに卵のたんぱく質が熱で固まり、ふくらんだ形のまま骨組みになります。ベーキングパウダーを入れないこの記事の配合では、ふくらみはすべてこの泡によるものです。粉を混ぜるときに泡をつぶすと、そのぶんふくらまなくなります。ミキサーを使わず、ゴムべらで大きく混ぜるのはそのためです。
粉が少ないと、中心がクリーム状に残る
ふつうのスポンジケーキは、小麦粉のでんぷんが水を吸って糊のように固まり(糊化)、卵と一緒に骨組みになります。この配合では、粉は卵の重さの4分の1ほどしかありません。骨組みのほとんどを卵のたんぱく質がになうので、火が入りきらない中心は、固まらずにとろりと残ります。
マギーによると、卵黄は65〜70℃前後でとろみがつき、固まり始めます。砂糖が多いと、卵のたんぱく質が固まり始める温度はさらに上がります。オーブンの熱は型の縁から伝わるので、生地は縁から先に固まり、中心は遅れて固まります。縁に刺した竹串に生地がつかず、中心はまだゆれる、という状態で取り出せるのはそのためです。
骨組みが弱いので、冷めるにつれて中心はへこみます。型のまま冷まし、冷めてから紙ごと出すのは、温かいうちに動かすとくずれやすいからです。
半熟に焼くときの卵の安全
半熟の中心は、卵が十分に加熱されていない状態です。卵には、まれにサルモネラ菌(食中毒の原因になる菌)がついていることがあり、加熱が足りないと生き残るおそれがあります。日本の卵のパックの賞味期限は、生で食べられる期限です。冷蔵庫で保存した、賞味期限内でひびのない卵を使ってください。焼いたあとも、半熟の中心は傷みやすいので、冷めたらなるべく早く食べ、残りはすぐに冷蔵庫に入れます。
小さな子ども、高齢の人、妊娠中の人、体調のすぐれない人が食べるときは、半熟に残さず、手順4の終わりのとおり、中心に刺した竹串に生地がつかなくなるまで焼きます。
地域による違い
- オヴァール(北部、アヴェイロ県):この記事で作るタイプです。卵黄が多く、白い紙を敷いた型で焼き、中はしっとりとクリーム状です。ポルトガルの生活情報サイト、エコノミスタは、中に卵のクリームがあり、縁に紙が貼りついているのが本物のしるしだとしています。
- アルフェイゼラォン(中部、アルコバサの近く):中がさらに液状に近いタイプです。ポルトガルの公共放送RTPが伝えたルーザ通信の記事によると、銅の丸型に入れて、とても熱いオーブンで約15分焼きます。近くのコス修道院の修道女が作り方を伝えたとされます。記事が紹介する伝説では、19世紀末に国王ドン・カルロスが訪れたとき、緊張した修道女が予定より早く取り出してしまったのが始まりだといいます。1925年には、町のかつての教区司祭が、祝いの日に家庭で作られていたこの菓子を広めるため、専門の店を開いたとされています。
- マルガリーデ(北部、フェルゲイラス):中まで焼いた、ふんわり軽いタイプです。テレクリナーリアのレシピは、卵黄9個と全卵3個に、砂糖250g、小麦粉125gと、オヴァール風より粉が多く、170℃で約35分焼きます。ポルトガルの老舗を紹介する「コメルシオ・コン・イストリア」によると、マルガリーデの製造所は、伝承では1730年にさかのぼり、19世紀に王室御用達の称号を得ました。
- アロウカ(北部):ポルトガル語版ウィキペディアによると、1840年から作られ、長方形の型で焼きます。切り分けたものに、熱い砂糖のシロップをまとわせます。
- 家庭のふんわりしたタイプ:ラジオ局RFMが紹介するレシピ(料理サイト、プチ・シェフのもの)は、卵7個を卵黄と卵白に分けて泡立て、砂糖250g、小麦粉150gにレモンかオレンジの皮を加え、180℃で25〜30分焼きます。
日本のカステラとの関係
ポルトガル語版ウィキペディアは、16世紀に日本に来たポルトガル人がパン・デ・ローの作り方を持ち込み、それが日本を代表する菓子のひとつ「カステラ」になったと説明しています(この部分に出典は示されていません)。RTPが伝えたルーザ通信の記事では、アルフェイゼラォンの老舗菓子店の店主が、日本にも似た菓子があり、ポルトガルの船乗りが作り方を伝えたのだろうと話しています。ただし、どの土地のパン・デ・ローが、いつ、どのように伝わったのかは、この記事で参照したポルトガルの情報源には書かれていません。
手に入りにくい材料の代用
- 小麦粉:ポルトガルのレシピは「小麦粉」とだけ書き、単一文書は「タイプ55」の小麦粉としています。たんぱく質の量では日本の中力粉に近い粉と見られますが、粉が少なく、卵の泡が骨組みになる菓子なので、日本の薄力粉を使います。強力粉や中力粉だとグルテン(水を加えて混ぜるとできる、弾力のあるたんぱく質の網)が強く出て、泡をつぶしやすくなります。
- 紙:オヴァールでは白い紙を敷いて焼きます。家庭ではクッキングシートで代用します。紙ごと切り分けるので、型に合わせて切らずに、大きな1枚をひだを寄せて敷きます。
- 直径23cmの型:テレクリナーリアの元の大きさです。卵黄216g(Mサイズ12個分)、全卵100g(Mサイズ2個)、グラニュー糖210g、塩1g、薄力粉80g、型に塗るバター6gで、焼き時間は30〜35分を目安にします(テレクリナーリアは185℃で約30分)。
- 直径18cmの型(深さ6cm以上):卵黄132g(Mサイズ7〜8個分)、全卵60g(Mサイズ約1個)、グラニュー糖130g、塩0.7g(小さじ1/8)、薄力粉49g、型に塗るバター4gで、焼き時間は25〜30分を目安にします。この時間は直径から見積もったもので、元のレシピにはありません。20分を過ぎたら様子を見ます。
- どの大きさの型でも、焼き上がりは時間でなく、手順4の竹串とゆれ具合で見極めます。中心まで火を通すときも、中心の竹串に生地がつかなくなるまで焼きます。
失敗したときは
- ふくらまず、低く重い:泡立てが足りないか、粉を混ぜるときに泡をつぶしました。リボン状に落ちた跡が2〜3秒残るまで泡立て、粉はゴムべらで大きく、混ぜすぎないようにします。卵が冷たいと泡立ちにくいので、室温に戻してから使います。
- 中心が流れ出るほど生だった:焼き時間か温度が足りません。縁から3cmほど内側の竹串に生地がつかなくなるまで、3〜5分ずつ延ばします。オーブン温度計で、設定どおりの温度が出ているか確かめます。
- 中心が固まって、乾いたスポンジになった:焼きすぎです。次は、中心をゆするとゆれるうちに取り出します。型が小さいほど早く火が入るので、記事より小さい型では早めに確かめます。
- 表面が焦げた:上のヒーターに近すぎるか、温度が高すぎます。中段で焼き、焼き色が濃くなってきたら、残りの時間はアルミホイルをかぶせます。
保存
- 常温:半熟に焼いたものは、冷めたらなるべく早く食べ、常温で置いておかずに、残りはすぐに冷蔵庫に入れます。中心まで焼いたものは、涼しい時期なら焼いた日のうちは常温でかまいません
- 冷蔵:紙をつけたままラップで包み、半熟に焼いたものは翌日まで、中心まで焼いたものは2日を目安に食べきります。半熟のものは、食べる15分ほど前に冷蔵庫から出すと、中心のとろみが戻ります
- 残った卵白:保存容器に入れて冷蔵で2〜3日、冷凍で1か月保存でき、メレンゲなどに使えます
スペイン・ポルトガルのほかのレシピ
もっと知りたい人へ
出典
- Teleculinária「Pão de ló de Ovar」(ポルトガル語)
- e-konomista「3 receitas de pão de ló para a época festiva」(ポルトガル語)
- Teleculinária「Pão de ló de Margaride」(ポルトガル語)
- RFM「Queres fazer pão de ló na Páscoa? Esta receita simples leva apenas 4 ingredientes」(ポルトガル語)
- 24 Notícias(SAPO)「Bruxelas classifica Pão de Ló de Ovar como produto protegido」(ポルトガル語)
- EU官報 C 141(2016年4月22日。infor.pl 掲載のポーランド語版)「JEDNOLITY DOKUMENT「PÃO DE LÓ DE OVAR」」(ポーランド語)
- No Ponto「PÃO-DE-LÓ DE OVAR」(ポルトガル語)
- Observador「Pão de Ló de Ovar, a tradição portuguesa que conquista o mundo」(ポルトガル語)
- RTP「Pão-de-ló de Alfeizerão a caminho de ser marca certificada」(ポルトガル語)
- e-konomista「Como escolher os melhores pães-de-ló para este Natal」(ポルトガル語)
- Observador「Do bolo de arroz ao pastel de nata: cinco histórias açucaradas da nossa pastelaria」(ポルトガル語)
- Wikipédia「Pão de ló」(ポルトガル語)
- Comércio com História「Fabrica de Pão de Ló de Margaride」(英語)
本文とレシピは、上の情報源を比べたうえで独自に組み立て直したものです。