トルタ・デッラ・ノンナTorta della nonna レシピ
Torta della nonnaトルタ・デッラ・ノンナ

この記事はAmazonアソシエイト・楽天アフィリエイトのリンクを含みます。
トルタ・デッラ・ノンナは、レモンの香るカスタードクリームを、さくさくした甘い生地で上下からはさみ、松の実をのせて焼くトスカーナのタルトです。仕上げに粉砂糖をふると、松の実の香ばしさとクリームのやさしい甘さがよく合います。
材料は、小麦粉、バター、砂糖、卵、牛乳、レモン、松の実と、どれも身近なものです。生地もクリームも先に作って冷やしておけるので、焼く日の作業は組み立てとオーブンだけです。
トルタ・デッラ・ノンナとは
イタリア語のつづりは Torta della nonna です。トルタはケーキやタルト、ノンナはおばあさんのことで、「おばあさんのタルト」という意味になります。
生地はパスタ・フロッラ(pasta frolla)と呼ばれる、バターと砂糖と卵を練り込んだクッキーのような生地です。中のクリームはクレーマ・パスティッチェーラ(crema pasticcera)、つまり牛乳と卵黄と砂糖を小麦粉などでとろみづけしたカスタードクリームです。
アレッツォか、フィレンツェか
名前からは家庭で受け継がれてきたお菓子に思えますが、生まれた場所と時期ははっきりしていません。
イタリア語版ウィキペディアは、トスカーナ東部のアレッツォ周辺で古くからあったとする説と、より新しくフィレンツェで生まれたとする説の両方を紹介しています。
フィレンツェ説でよく語られるのは、料理人でレストランの主人だったグイド・サモリーニの話です。店のデザートの少なさに飽きた常連客に、次の週に驚くものを出してほしいと頼まれ、このタルトを出したところ評判になった、と伝えられています。イタリアの書き手ヴァレリア・ネッキオは、英国の料理サイト「グレート・イタリアン・シェフズ」の記事で、これを最も有力な説とし、店の名前をサン・ロレンツォとしています。
ただし、イタリア語版ウィキペディアがこの話の出典に挙げている料理サイト「イル・クッキアイオ・ダルジェント」の今のページには、サモリーニの名前は出てきません。そこでは、トスカーナの伝統のお菓子で、少ない材料で客を驚かせようとした料理人の工夫から生まれた、と書かれています。英語版ウィキペディアでも、この話には「出典で確認できない」という印がついています。
一方、イタリアの料理メディア「ディッサポーレ」は、いつものデザートに飽きた客に、1週間後に新しいお菓子を出すと約束したアレッツォのレストランの主人が考えた、という似た話を、言い伝えとして紹介しています。どちらの説でも、お店の客のために生まれたお菓子とされているのが共通点です。
さらに古い形を、19世紀の料理書の著者ペッレグリーノ・アルトゥージの記述に見る人もいます。ディッサポーレは1891年のアルトゥージの料理書『料理の科学と美味しく食べる技法』にある一節として、ネッキオはアルトゥージがイタリアを旅して似た菓子を食べたという記述として紹介しています。ただし、その一節が本のどこにあるのかは、この記事では原典で確かめられていません。
イタリアの大手レシピサイト「ジャッロ・ザッフェラーノ」は、1980年代半ばから90年代はじめのレストランのデザートワゴンで、よく選ばれていたお菓子として紹介しています。
上の生地をのせるか、のせないか
この記事で参考にしたイタリアの書き手のレシピ6件のうち5件はパスタ・フロッラを使い、その5件はどれも上にも生地をかぶせる2枚重ねです。ジャッロ・ザッフェラーノは、上の生地をのせない形も紹介しています。ディッサポーレのように、砂糖も卵も入れないパイ生地に、卵と生クリームのフィリングを流す作り方もあり、家庭や店によって幅のあるお菓子です。
ココアを加え、松の実の代わりにアーモンドをのせたものは「トルタ・デル・ノンノ」(おじいさんのタルト)と呼ばれます。
この記事の生地は、冷たいバターを粉にすり込むジャッロ・ザッフェラーノ、リチェッテ・ダル・モンド、ネッキオの作り方にならい、配合はリチェッテ・ダル・モンド、イル・クッキアイオ・ダルジェント、ネッキオの範囲の中ほどにしました。クリームは、ジャッロ・ザッフェラーノとネッキオにならって小麦粉でとろみをつけ、配合はリチェッテ・ダル・モンド、イル・キッコ・ディ・マイス(ジャッロ・ザッフェラーノのブログ)、ネッキオの範囲の中ほどにしました。イタリアのレシピの型は直径20〜26cmなので、日本で手に入りやすい直径21cmの型に合わせて、面積の比で分量を決めました。
トルタ・デッラ・ノンナのレシピ:材料(直径21cmのタルト型(底が抜けるもの・深さ2.5〜3cm)1台(8切れ分))
生地づくり 2時間(生地とクリームを冷やす時間を含む)焼き 45〜55分難しさ ふつう
生地(パスタ・フロッラ)
クリーム(クレーマ・パスティッチェーラ)
作り方
粉とバターをすり合わせる
ボウルに薄力粉250g、ベーキングパウダー2g、塩1gを入れて混ぜる。冷たいバター140gを加え、指先で粉とバターをすり合わせて、バターの粒が見えなくなり、さらさらの砂のようになるまで混ぜる。手の熱でバターが溶けないよう、手早く行う。
生地をまとめて冷やす
グラニュー糖110gとすりおろしたレモンの皮2gを加えて混ぜる。溶いた全卵50gを加え、カードで切るように混ぜて、そぼろ状になったら手で押しつけてひとまとめにする。こねないこと。約370gと約185gの2つに分け、それぞれ厚さ2cmの円盤にしてラップで包み、冷蔵庫で1時間以上冷やす。
型を準備する
タルト型の内側にバター10gを薄く塗り、薄力粉10gをはたいて余分を落とす。使うまで冷蔵庫に入れておく。
牛乳にレモンの香りを移す
鍋に牛乳450mlとレモンの皮4gを入れ、中火で沸騰直前(鍋の縁に小さな泡が出るまで)温める。火を止めてふたをし、10分おく。
卵黄と砂糖と粉を混ぜる
ボウルに卵黄72gとグラニュー糖90gを入れ、泡立て器で白っぽくなるまですり混ぜる。薄力粉36gをふるい入れて、粉が見えなくなるまで混ぜる。レモンの皮を取り出した牛乳を4〜5回に分けて加えて混ぜ、目の細かいざるでこしながら鍋に戻す。
クリームを煮る
中火にかけ、泡立て器で鍋底と角をこするように混ぜ続ける。とろみがついて重くなったあと、中心がふつふつと沸騰してから、さらに1〜2分混ぜながら煮る。つやが出て、混ぜる手がやや軽くなれば煮上がり。煮立ったクリームは跳ねてやけどしやすいので、顔を近づけず、長めの泡立て器を使う。
クリームを急いで冷ます
すぐにバットに広げ、表面にラップをぴったり密着させる。バットの底を氷水に当てて粗熱をとり、冷蔵庫で1時間以上、中まで冷たくなるまで冷やす。
オーブンを予熱する
網をオーブンの下段にセットし、170〜180℃に予熱する。
底の生地を敷く
台と生地に打ち粉(強力粉30gから使う)をふり、大きいほうの生地を直径27〜28cm・厚さ3〜4mmの円にのばす。冷蔵庫から出したてで固く、ひびが入るときは5分ほどおいてからのばす。麺棒に巻きつけて型にのせ、底の角と側面にしっかり沿わせる。縁の上で麺棒を転がして、はみ出した生地を切り落とす。
クリームを詰める
冷えたクリームをゴムべらでほぐしてなめらかにし、敷いた生地に入れて表面を平らにならす。
ふたの生地をのせる
小さいほうの生地に、切り落とした生地を合わせて、直径23cm・厚さ3mmの円にのばす。クリームの上にのせ、縁を指で押さえて底の生地とはり合わせ、はみ出した生地を切り落とす。
卵白を塗って松の実をのせる
卵白15gをフォークでほぐし、はけで表面全体に薄く塗る。松の実50gをまんべんなく散らし、手のひらで軽く押さえる。型ごと冷蔵庫で10分ほど冷やす。
焼く
下段で170〜180℃で45〜55分焼く。35分たったころに表面が濃く色づきすぎていたら、アルミホイルをふんわりかぶせる。表面と縁の生地が全体に濃いめのきつね色になり、松の実がこんがりと薄茶色に色づけば焼き上がり。型とオーブンの中はとても熱いので、厚手のミトンで取り出す。
冷やして仕上げる
型のまま網にのせて、室温で2時間ほど、完全に冷ます。ラップをかけて冷蔵庫で6時間以上(できれば一晩)冷やし、クリームを落ち着かせる。型から外し、食べる直前に粉砂糖10gを茶こしでふる。
冷蔵庫から出して10〜15分おき、ひんやりしたクリームを味わいます。食後のエスプレッソと一緒にどうぞ。
料理科学:パスタ・フロッラを冷やす理由
冷たいバターで粉を包む
小麦粉に水分を加えて混ぜると、粉のたんぱく質がつながってグルテン(弾力のあるたんぱく質の網)ができます。パンには欠かせませんが、パスタ・フロッラでは、グルテンが多いと生地が固くなり、焼くと縮みます。
最初に冷たいバターを粉にすり込むのは、粉の粒をバターの脂で包んで、あとから加える卵の水分がたんぱく質に届きにくくするためです。料理科学者のハロルド・マギーは、脂肪がグルテンのつながりを短く断ち切ることで、ほろりと崩れる生地になると説明しています。英語で油脂を「ショートニング」と呼ぶのも、この働きから来ています。
バターが柔らかいと、粉と混ざり合ってべたつき、卵を加えたあとも生地がだれます。こねるとグルテンが増えるので、生地はひとまとまりになった時点で止めます。
寝かせると、のばしやすく縮みにくい
まとめた生地を冷蔵庫で1時間以上冷やすのには、理由が三つあります。
- バターが固まり、べたつかずに薄くのばせる(ジャッロ・ザッフェラーノも、生地を冷やして固めるよう書いています)
- 卵の水分が粉全体に行き渡り、のばしたときにひびが入りにくくなる
- 混ぜるときに張ったグルテンがゆるみ、型に敷いたあと焼いても縮みにくくなる
焼く直前に型ごともう一度冷やすのも同じ理由です。冷たい生地を熱いオーブンに入れると、バターが溶けて流れ出す前に生地の表面が固まり、側面がずり落ちにくくなります。
00粉と日本の薄力粉
イタリアの小麦粉は、灰分(ミネラル分)の量で00、0、1、2と分けられています。イタリアの法律(2001年の大統領令187号)では、00粉は灰分0.55%以下、たんぱく質9.0%以上と決められています。どちらも水分を除いた重さに対する値で、たんぱく質9.0%を水分14.5%の粉に直すと約7.7%です。
日本の薄力粉も灰分が少なく、たんぱく質はおおむね6.5〜9%なので、00粉の下のほうと重なります。パスタ・フロッラはグルテンを増やしたくない生地なので、たんぱく質の少ない薄力粉で問題なく作れます。
料理科学:クリームのデンプンと卵
沸騰させても分離しない理由
卵だけで固めるカスタードは、温度が上がりすぎると卵のたんぱく質が固まりすぎて、ぼそぼそに分離します。プリンを低い温度で蒸し焼きにするのはそのためです。
小麦粉を入れたクリームは、沸騰させてもなめらかなままです。デンプンの粒は、おおむね60℃を超えたあたりから水を吸ってふくらみ、沸騰に近づくにつれてとろみが強くなります(糊化)。マギーは、デンプンが卵のたんぱく質どうしの固い結びつきを妨げるためだと説明しています。
沸騰してから1〜2分煮る理由
とろみがついたところで火を止めてはいけません。卵黄には、デンプンを分解する酵素(アミラーゼ)が含まれています。マギーなどの料理科学の本では、加熱が足りないとこの酵素が働き続け、冷ますうちにデンプンが分解されて、クリームが水っぽくゆるんでしまうと説明されています。
中心がふつふつと沸いてから1〜2分煮て、酵素の働きを止め、デンプンも十分に糊化させます。卵にしっかり火を通すためにも、沸騰させる工程は省きません。切ったときにクリームが流れ出さないのは、この工程と、焼いたあとに冷蔵庫で十分に冷やす工程のおかげです。
ジャッロ・ザッフェラーノは、クリームのとろみづけにはコーンスターチを使うことが多いが、このタルトではクリームをオーブンでもう一度加熱するので小麦粉を使う、と説明しています。リチェッテ・ダル・モンドやイル・キッコ・ディ・マイスのように、コーンスターチで作るレシピもあります。
急いで冷ます理由
卵黄と牛乳のクリームは、ぬるい温度に長くおくと細菌が増えやすい食べ物です。バットに薄く広げて氷水で冷やすのは、その温度帯を早く通り抜けるためです。表面にラップを密着させると、表面が乾いて膜が張るのも防げます。
詰めるときにクリームが冷たいことも大切です。温かいクリームを入れると、底の生地のバターが溶けてクリームの水分を吸い、焼いても底が生焼けのようにべたつきます。
手に入りにくい材料の代用
- 00粉:イタリアの小麦粉の種類です。日本の薄力粉で代用できます(理由は「料理科学」の節に書きました)。
- 松の実:日本でもスーパーの製菓材料や中華食材の売り場で手に入ります。手に入らないときは、アーモンドスライスを同じ量使います。ナッツのアレルギーがある人に出すときは注意してください。
- レモンの皮:皮の表面に防かび剤やワックスを使ったものは避け、国産のものを使います。白いわたは苦みが出るので入れません。
- 直径18cmのタルト型:直径21cmの型の約0.75倍の面積です。材料をすべて0.75倍にし、生地は約280gと約140gに分けます。焼き時間は40〜50分を目安にします。
- 直径24cmのタルト型:直径21cmの型の約1.3倍の面積です。材料をすべて1.3倍にし、焼き時間は50〜60分を目安にします。
失敗したときは
- 底の生地がべたついて、生焼けのよう:詰めたクリームが温かかったか、オーブンの下からの熱が足りていません。クリームは中まで冷やしてから詰め、網を下段にして焼きます。金属製の型を使います。
- 焼いているうちに側面の生地がずり落ちた:生地が温まって柔らかかったか、側面だけ薄くのびていました。型に敷いたら冷蔵庫で冷やしてから焼き、側面も底と同じ厚さにします。
- 切るとクリームが流れ出る:クリームを沸騰させてからの煮る時間が足りなかったか、冷やす時間が短すぎます。沸騰してから1〜2分煮て、焼いたあとは冷蔵庫で6時間以上冷やします。
- 生地が固く、型の中で縮んだ:生地をこねすぎたか、寝かせる時間が足りませんでした。卵を加えたら、ひとまとまりになった時点で混ぜるのをやめ、1時間以上冷やします。
保存
- 冷蔵:ラップをかけて2日。卵と牛乳のクリームが入っているので、室温に長く置かずに冷蔵庫で保存します
- 生地:手順2で包んだ状態で、冷蔵庫で2日、冷凍庫で1か月。冷凍したものは冷蔵庫で解凍してから使います
- クリーム:手順7まで終えて、冷蔵庫で翌日まで
もっと知りたい人へ
出典
- GialloZafferano「Torta della nonna」(イタリア語)
- RicetteDalMondo.it「Torta della nonna cremosissima. La ricetta originale per farla perfetta!」(イタリア語)
- Il Cucchiaio d'Argento「Torta della nonna」(イタリア語)
- Il chicco di mais(GialloZafferano Blog)「Torta della nonna classica」(イタリア語)
- Dissapore「Torta della nonna, la ricetta originale con crema e pinoli」(イタリア語)
- Wikipedia「Torta della nonna」(イタリア語)
- Wikipedia「Torta della nonna」(英語)
- Great Italian Chefs「Torta della Nonna」(英語)
- Edizioni Europee「§ 4.3.57 – D.P.R. 9 febbraio 2001, n. 187.」(イタリア語)
本文とレシピは、上の情報源を比べたうえで独自に組み立て直したものです。