フィナンシェFinancier レシピ
financierフィナンシエ

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フィナンシェは、アーモンドプードルと卵白と焦がしバターで作る、フランスの小さな焼き菓子です。長方形の型で焼くと、縁はカリッと香ばしく、中はしっとりとして、焦がしバターのナッツのような香りがします。
材料を量って混ぜ、型に入れて焼くだけで、泡立ても発酵もいりません。パリの菓子職人ユーグ・プジェのレシピや、フランスの製菓材料店のシェフのレシピなど、フランス語のレシピ5件を比べて配合を決め、家庭のオーブンで焼ける手順にまとめました。
フィナンシェとは
フランス語では financier と書き、「金融家」「資本家」という意味の言葉です。フランス語の発音は「フィナンシエ」に近く、日本では「フィナンシェ」の表記で広く知られています。フランス語版ウィキペディアは、アーモンドプードルと卵白で作る、だ円か長方形の小さな菓子と説明しています。フランスのレストランガイドのゴー・ミヨは、基本の材料をバター、アーモンドプードル、小麦粉、砂糖、卵白としています。
修道院の菓子と、証券取引所の近くの菓子職人
よく語られる由来の話は、二つの段階に分かれています。
ひとつめは、17世紀の修道院の話です。ラジオ局ヨーロッパ1のサイトでオリヴィエ・ポエルスは、17世紀のロレーヌ地方で、修道院の修道女たちがアーモンドプードルで作る「ヴィジタンディーヌ」という菓子が、ある程度の人気を得ていたと書いています。ゴー・ミヨも、17世紀の修道院で生まれ、その修道院にちなんでヴィジタンディーヌと呼ばれていたと書いています。フランス語版ウィキペディアは、地元紙の記事を出典に、17世紀のロレーヌ地方の都市ナンシーで、聖母訪問会(ヴィジタシオン会)の修道女が、アーモンド、小麦粉、砂糖、バター、卵白で小さな菓子を作っていたと書いています。ただし、その菓子がなぜ作られたかの説明には、出典が必要だという注記がついています。
ふたつめは、1890年ごろのパリの話です。ポエルスとゴー・ミヨは、パリの証券取引所の近くに店を構えていた菓子職人ラヌ(Lasne)が、このレシピを取り上げたとしています。フランスの健康情報サイト E-Santé は、証券取引所の近くに店があったラヌが1890年ごろに作った菓子としています。ポエルスは、ラヌが菓子を金の延べ棒の形に変え、客の金融家たちにちなんで名づけたと書いています。指を汚さない菓子が、その客たちに好まれたとも書いています。ゴー・ミヨも、延べ棒の形は金融家の客への目くばせだったとしています。E-Santé は名前の由来について、証券取引所の金融家が手を汚さずに食べられるように作ったという説と、長方形の型が金の延べ棒を思わせるという説を挙げ、はっきりとはわからないとしています。
記録からわかること
フランス語版ウィキペディアは、ラヌの話に疑問を示しています。この菓子の名が出てくる、いちばん古いとみられる記録は、菓子職人ピエール・ラカンが1865年に出した本です。「フィナンシエ」という名で、溝のある平たい型で焼くアーモンドの菓子と、小さなサバラン型で1個ずつ焼く「フィナンシエール」のレシピが載っています。ウィキペディアは、1890年代にラヌが名前を考えたという話は、この記録と合わないとしています。
ラカンは1900年の本で、果物を詰めた大きなフィナンシェを、サン=ドニ通りのラヌの菓子として紹介していますが、年は書いていません。ウィキペディアによると、P・ラヌ(Lasnes とも書く)という菓子職人がこの通りで店を開いていたのは、当時の資料では1828〜1850年ごろです。また、証券取引所は1826年からブロンニャール宮にあり、サン=ドニ通りはそのすぐそばではありません。延べ棒の形にしたことなどの細かい話は、史料がないので慎重に受け取るべきだとしています。
この記事の配合
読んだフランス語のレシピ5件を比べると、砂糖は卵白の9割から1.1倍ほどで、ほぼ同じ重さでした。ヘーゼルナッツを使う1件を除く4件では、アーモンドは卵白の3分の1から半分ほど、小麦粉は3分の1ほどです。バターは卵白の半分から9割ほどまで、幅があります。
この記事は、卵白120g、粉糖120g、アーモンドプードル50g、薄力粉40g、バター90gにしました。アーモンドを小麦粉より多めにしたのは、フィナンシェでは小麦粉の半分以上をアーモンドプードルに置き換える、というウィキペディアの説明に合わせたためです。ベーキングパウダーは5件のうち2件だけが使っていて、ウィキペディアとゴー・ミヨの基本の材料にも入っていないので、使いません。生地を冷蔵庫で2時間休ませるのは、プジェのレシピにならいました。
型の大きさを書いているフランスのレシピ2件では、型はどちらもシリコン製で、約8.7×4.7cmと9.5×4.5cmです。日本でよく見る金属の型(約8.4×4.2cm)は面積が1〜2割ほど小さいので、1個あたりの生地の量を面積の比で直し、約34gにしました。
フィナンシェのレシピ:材料(フィナンシェ型(約8.4×4.2cm)12個)
生地づくり 2時間40分(生地を冷蔵庫で2時間休ませるのを含む)焼き 12〜15分難しさ やさしい
生地
作り方
型にバターを塗る
型12個の内側の隅まで、やわらかくしたバター10gを刷毛で薄く塗る。6個取りの型なら半量の5gを塗り、残りの5gは2回目に使う。冷蔵庫に入れて冷やしておく。
焦がしバターを作る
小鍋にバター90gを入れて中火にかける。溶けたバターが泡立ち、パチパチと音を立てるのは、水分が蒸発しているところ。ときどき鍋をゆすりながら加熱を続ける。音が静まると色づきが急に進むので、ここからは目を離さない。底に沈んだ粒がヘーゼルナッツのような茶色になり、香ばしい香りがしたら、すぐに耐熱のボウルに移す。鍋に入れたままだと余熱で焦げる。熱いバターははねることがあるので、やけどに気をつけ、顔を近づけない。粒が黒くなったら焦げすぎ。
焦がしバターを冷ます
料理用温度計で40〜50℃になるまで、15〜20分おいて冷ます。底の茶色い粒も香りのもとなので、こさずにそのまま使う。
粉類を合わせる
ボウルに粉糖120g、アーモンドプードル50g、薄力粉40gをふるい入れる。塩1gを加え、泡立て器で全体を混ぜる。
卵白を泡立てずに混ぜる
粉の中央にくぼみを作り、卵白120gを入れる。泡立て器をくぼみの中で小さく動かし、周りの粉を内側から順に取り込みながら、なめらかになるまで混ぜる。泡立てないように、空気を入れずに混ぜるのがこつ。
焦がしバターを加える
40〜50℃に冷ました焦がしバターを3回に分けて加える。そのつど泡立て器で、生地全体につやが出るまで混ぜる。
冷蔵庫で休ませる
生地の表面にぴったりとラップをかけ、冷蔵庫で2時間休ませる。
型に生地を入れる
オーブンを200℃に予熱する。生地をゴムべらで軽く混ぜてなめらかにし、絞り袋に入れる。冷やした型の8分目ほどまで、1個約34gずつ絞り入れる。6個取りの型の場合は、残りの生地を冷蔵庫に入れておき、1回目が焼けたら型を洗って冷まし、残りの型用のバター5gで手順1と同じように準備して焼く。
焼く
190〜200℃で12〜15分焼く。縁が濃いきつね色になり、中央がふくらんで表面も薄く色づき、指で軽く押すと弾力があり、竹串を刺して生地がついてこなければ焼き上がり。
型から出して冷ます
型と天板はとても熱いので、オーブンミトンをつけて取り出す。網の上で2〜3分おいてから、型を逆さにして外し、網の上で冷ます。
縁がまだカリッとしているうちに、コーヒーや紅茶と一緒に食べます。フランス語版ウィキペディアには、余った卵黄で作れるクレーム・アングレーズ(卵黄と牛乳と砂糖で作るとろみのあるソース)がいちばんよく合う、という記述もあります(出典が必要だという注記つき)。クレーム・アングレーズを作るときは、卵黄が生のまま残らないよう、とろみがつくまで加熱します。
料理科学:焦がしバター(beurre noisette)
水が飛んでから、乳の成分が色づく
焦がしバターを、フランス語では「ヘーゼルナッツのバター」と呼びます。アメリカの料理メディア、ミルク・ストリートによると、バターは乳脂肪が80〜84%、水が14〜18%で、残りが乳の固形分(たんぱく質や糖など)です。
アメリカの料理研究機関アメリカズ・テスト・キッチンの説明では、バターを加熱すると、脂肪と水が混ざり合った状態(乳化)が壊れ、水が分かれます。泡立ってパチパチと音がするのは、その水が蒸発している合図です。水がなくなると温度が100℃を超えて上がり、乳の固形分に含まれる糖とアミノ酸が反応して、茶色い色と香ばしい香りが生まれます。これがメイラード反応です。音が静まったあとは色づきが急に進み、火から下ろしても余熱で焦げ続けるので、手順ではすぐに別のボウルに移します。黒くなった粒は苦みのもとになります。
水分が抜けるので、焦がしバターは元の重さより1〜2割軽くなります。材料のバター90gは、焦がす前の重さです。焦がしたあとに足して量を合わせる必要はありません。
冷ましてから卵白に加える理由
卵白のたんぱく質のひとつ、オボトランスフェリンが変性する(熱で形が変わる)温度は、57℃前後と査読論文にまとめられています。焦がしたばかりの熱いバターを卵白の入った生地に加えると、卵白の一部が固まり始めるおそれがあると考えられます。プジェのレシピは焦がしバターを30分冷まし、製菓材料店メイユール・デュ・シェフのレシピも、ぬるい状態で加えるとしています。この記事では、液体のまま扱える40〜50℃まで冷ましてから加えます。
ミルク・ストリートは、卵などほかの水分が入る生地は、バターの水分にあまり頼らないとしています。フィナンシェの生地の水分は、卵白が担っています。
料理科学:泡立てない卵白とアーモンドプードル
卵白が生地の骨組みになる
卵白のたんぱく質は9.7〜12%ほどで、大部分は水です。ブラジルの農学誌に載った卵白の論文によると、卵白は71℃前後から固くなり始め、70〜74℃で弾力が出て、85〜90℃でしっかりした網目を作ります。フィナンシェは小麦粉が少ないので、焼いたときに生地の形を支える骨組みの多くを、この卵白のたんぱく質が担うと考えられます。
卵白を泡立てると、たんぱく質が空気の泡を包み込み、軽い生地になります。読んだ5件のうち4件は卵白を泡立てずに混ぜていて、泡立てるのはヨーロッパ1の記事のレシピだけでした。アメリカの食の雑誌『アート・オブ・イーティング』のエドワード・ベアは、泡立てないことがこの菓子の特徴で、目が詰まって弾力のある食感になると書いています。手順で泡立て器を中央で小さく動かすのは、空気を入れずに、だまなく混ぜるためです。
アーモンドプードルがしっとりさせる
フランスの食品成分表(Ciqual)では、皮つきのアーモンド100gあたり脂質が53.4g、デンプンは0.4gほどです。小麦粉を水と混ぜると、小麦のたんぱく質がつながってグルテンという弾力のある網目ができますが、アーモンドからはグルテンはできません。粉の半分以上を、グルテンを作らず脂の多いアーモンドにしているので、目が詰まっていても固くならず、しっとりした口当たりになります。
縁がカリッとする
生地には卵白と同じ重さの砂糖が入っています。型に触れている縁は水分が早く飛んで温度が上がり、砂糖と卵白のたんぱく質が色づいて、カリッとした香ばしい外側になります。内側は水分が残るので、しっとりしたままです。ゴー・ミヨの記事によると、ディジョンの菓子店ブール・ノワゼットは、はっきりした外側としっとりした中を両立させるために、金属の型だけで焼いています。
フランスのレシピによる違い
- ベーキングパウダー:メイユール・デュ・シェフと E-Santé のレシピは、少量のベーキングパウダーを加えています。
- 卵白を泡立てる:ヨーロッパ1の記事のレシピは、卵白を泡立ててから生地に混ぜます。ウィキペディアも、泡立てる作り方と泡立てない作り方の両方があるとしています。
- ヘーゼルナッツ:フランスの料理ブロガー、ジュリーのレシピは、料理人シリル・リニャックのレシピをもとに、アーモンドプードルの大部分をヘーゼルナッツの粉にしています。ウィキペディアは、ピスタチオを使う例も挙げています。
- はちみつ:プジェのレシピは、焦がしバターにはちみつを加えます。
- 型と名前:ウィキペディアによると、ヴィジタンディーヌは丸い形か小舟形で焼かれます。フィナンシェを「フリアン」という名で売る店もあります。
手に入りにくい材料の代用
- 金属のフィナンシェ型:シリコン型でも焼けます。メイユール・デュ・シェフと E-Santé のレシピはシリコン型を使い、プジェのレシピもシリコン型をすすめています。ジュリーのレシピは、小さなマフィン型で焼いています。型によって焼き上がりの時間が変わるので、手順9の色と竹串で見極め、足りなければ焼き時間をのばします。
- 皮なしのアーモンドプードル:皮つきでも同じ重さで作れます。生地の色が少し濃く、皮の香りが加わります。
- 粉糖:プジェのレシピはグラニュー糖を使っています。同じ重さのグラニュー糖で代用できます。
- 食塩不使用バター:有塩バターを使うときは、材料の塩1gを入れません(バターの塩分の分を省く、この記事の目安です)。
失敗したときは
- 焦がしバターが黒く、苦い:加熱しすぎです。音が静まったあとは、急に色が濃くなります。ヘーゼルナッツ色になったらすぐにボウルに移します。黒い粒が多いときは、作り直すほうが確実です。
- 縁が白っぽく、カリッとしない:オーブンの温度か焼き時間が足りないと考えられます。予熱を十分にし、縁が濃いきつね色になるまで焼きます。シリコン型は金属の型より縁が色づきにくいことがあります。
- 中央が沈む・生っぽい:焼き時間が足りません。中央がふくらんで、押すと弾力が出るまで焼き、竹串で確かめます。
- 型から外れない:型に塗るバターが足りないと、はりつきやすくなります。隅まで薄く塗ってから冷やします。E-Santé は、熱いうちに型から出すとしています。
保存
- 常温:冷めてから密閉容器に入れ、湿気の少ない涼しい場所に置きます。E-Santé も、乾いた場所での保存をすすめています。日がたつと縁のカリッとした食感は失われていくので、早めに食べきります
- 冷凍:冷めたものを1個ずつラップで包み、保存袋に入れて冷凍できます。食感と風味は落ちていくので、早めに食べきります。食べるときは常温で解凍します
- 生地:卵白を生のまま使っているので、休ませた生地はその日のうちに焼きます
フランスのほかのレシピ
もっと知りたい人へ
出典
- Meilleur du Chef「Financier」(フランス語)
- E-Santé「Recette des financiers」(フランス語)
- Do It In Paris「Les financiers ultra-gourmands d'Hugues Pouget」(フランス語)
- Europe 1「Le financier」(フランス語)
- Recettes de Julie「Financiers aux noisettes」(フランス語)
- Gault&Millau「Le financier, son histoire et nos bonnes adresses」(フランス語)
- Gault&Millau「Où acheter un bon financier ?」(フランス語)
- Wikipédia「Financier (pâtisserie)」(フランス語)
- informationsnutritionnelles.fr(Ciqual 2013)「Amande」(フランス語)
- America's Test Kitchen「Browned Butter Is a Cook's Secret Weapon」(英語)
- Milk Street「When to Use Browned Butter in Your Baking (and When to Skip It)」(英語)
- Scientia Agricola「Albumen protein and functional properties of gelation and foaming」(英語)
- The Art of Eating「Le Financier」(英語)
本文とレシピは、上の情報源を比べたうえで独自に組み立て直したものです。