カスタニャッチョCastagnaccio レシピ
Castagnaccioカスタニャッチョ

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カスタニャッチョは、栗の粉を水で溶き、オリーブオイルをかけて焼くトスカーナの焼き菓子です。卵もバターも膨らし粉も使わず、砂糖も入れません。甘さは栗の粉そのものから来ます。表面には松の実とローズマリーの葉が散り、焼くと細かいひびが入ります。
栗が主食に近かった山あいの村で食べられてきた、素朴なお菓子です。ここでは、イタリアの料理メディア Dissapore のトスカーナ風の配合をもとに、日本で手に入りやすい直径21cmの丸型に合わせて分量を直しました。
カスタニャッチョとは
イタリア語では Castagnaccio と書きます。名前は、栗を意味するカスターニャ(castagna)から来ています。
栗が「パンの木」だった山の村で
トスカーナからエミリア=ロマーニャ、リグーリアにかけてのアペニン山脈の村では、栗が暮らしを支える食べ物でした。料理雑誌 Il Cucchiaio d’Argento は、穀物が乏しいときにも、干して挽いた栗の実から栄養のある粉がとれたので、山の地方では栗の木が「パンの木」とも呼ばれたとしています。
ルッカ県の山あいのガルファニャーナ地方では、栗を「メタート」(metato)と呼ばれる小屋で乾かします。栗の薪を炎を上げずにくすぶらせ、立ちのぼる煙で、およそ40日かけてゆっくり乾かします。トスカーナ州の観光公式サイトによると、1950年代まで、この地方には7000を超えるメタートと、干した栗を挽く製粉所がおよそ250ありました。ここで作られる栗粉は「ファリーナ・ディ・ネッチョ」(neccio は土地の言葉で栗の木のこと)と呼ばれ、いまは産地を保護する DOP の認定を受けています。
イタリア語版の Wikipedia によると、カスタニャッチョは第二次世界大戦のあと、暮らしが豊かになるにつれて、しばらく忘れられていました。その後に見直され、いまは秋の栗祭りの主役になっています。
ルッカのピラーデが最初に作ったという記録
カスタニャッチョにつながる古い記録として、16世紀の半ばに人文学者オルテンシオ・ランド(ランディとも書かれます)が書いた『イタリアの最も注目すべき、驚くべき事物についての注解』(Commentario delle più notabili et mostruose cose d’Italia)がよく挙げられます。イタリア語版の Wikipedia によると、この本の付録「食べ物を考え出した人の目録」に、ルッカの人ピラーデが最初に「カスタニャッツォ」を作り、そのことでほめられた、という一文があります。付録は「ユートピアの市民の匿名者」が書いたことになっています。本が出た年は、情報源によって1547年、1553年などと食い違っています。
どこで生まれたかについては、書き手によって言い方が違います。Il Cucchiaio d’Argento は、栗が主食だったガルファニャーナで生まれ、イタリアの中部と北部に広まったとしています。Dissapore のトスカーナ風のレシピは、16世紀ごろのトスカーナですでに作られていたらしいとし、19世紀に北イタリアへ伝わって、レーズン、松の実、ローズマリー、砂糖が加わったとしています。一方、食の出版社 Gambero Rosso の記事は、もとは栗粉、水、油、ローズマリーの4つだけで、松の実とレーズンはあとから加わったとしています。
アルトゥージのレシピ
ペッレグリーノ・アルトゥージの料理書『料理の科学と美味しく食べる技法』にも、240番のレシピとして載っています。題は「ファリーナ・ドルチェ(甘い粉)のミリアッチョ、俗にいうカスタニャッチョ」です。栗粉500gに冷たい水8dlを少しずつ加えてゆるい生地にし、松の実をひとつかみ入れます。くるみやレーズン、ローズマリーを加える人もいる、と書き添えています。生地の厚さは指1本半ほどで、型の底に油を薄く引き、上から大さじ2杯の油をかけて焼き、熱いうちに出すとしています。
カスタニャッチョのレシピ:材料(直径21cmの丸型1台(8切れ分))
生地づくり 20分焼き 30〜35分(このあと30分以上冷ます)難しさ やさしい
下ごしらえ
- レーズン(楽天)50g
- ぬるま湯(レーズンを戻す)100ml
- オリーブオイル(エクストラバージン)27g(大さじ2)
- ローズマリー(生)(油に香りを移して取り出す)1枝(長さ約10cm)
型の準備
- オリーブオイル(エクストラバージン)7g(小さじ1と1/2)
仕上げ
- 松の実(楽天)10g
- ローズマリー(生)の葉(長さ10cmの枝1本分)1g
- オリーブオイル(エクストラバージン)14g(大さじ1)
作り方
レーズンを戻す
レーズン50gをボウルに入れ、ぬるま湯100mlを注いで10分おく。
ローズマリーの香りを油に移す
小鍋にオリーブオイル27gとローズマリー1枝を入れ、ごく弱火で2〜3分温める。枝のまわりに小さな泡が出て香りが立ったら火を止める。煙が出るほど熱しない。生の枝の水分で油がはねることがあるので、顔を近づけない。そのまま冷まし、枝を取り出す。
型を準備し、オーブンを予熱する
型の底と側面に、オリーブオイル7gを刷毛でまんべんなく塗る。オーブンを180〜190℃に予熱する。
粉をふるう
生地用のボウルにざるをのせ、栗粉230gと塩1gをふるい入れる。栗粉は袋の中で固まっていることが多いので、ざるに残った粒は指でつぶして通す。
水を分けて加える
水275mlのうち約90mlを加え、泡立て器で練ってダマのないなめらかなペーストにする。残りの水を3回に分けて加え、そのつどよく混ぜる。泡立て器ですくって落とすと、とろりとリボンのように落ち、跡がすぐに消えるくらいの固さにする。跡が残って平らにならないときは、調整用の水30mlを大さじ1(15ml)ずつ加えて混ぜる。冷ましたローズマリーのオイルを加え、全体になじむまで混ぜる。
具を混ぜる
レーズンを手で軽く絞って水気をきる。戻したレーズンの約7割(戻す前の重さで35g分)と、松の実20gを生地に加え、ゴムべらで混ぜる。
型に流し、仕上げをのせる
生地を型に流し入れ、型を軽くゆすって表面を平らにする。残りのレーズン(戻す前の重さで15g分)、松の実10g、ローズマリーの葉1gを散らし、オリーブオイル14gを表面全体に回しかける。
焼く
オーブンの中段に入れ、180〜190℃で30〜35分焼く。表面が乾いてつやが消え、細かいひびが全体に入り、縁が濃い茶色になって型から2〜3mm離れてきたら焼き上がり。中心を指で軽く押すと、柔らかいがべたつかず、竹串を刺して抜いたときに、ぬれた生地がついてこなければよい。縁をもっとカリッとさせたいときは、松の実が焦げないよう色を見ながら5〜10分焼き足す。
冷まして切る
厚手のミトンで型を取り出し、網の上に置く。型と表面の油はとても熱いので、素手でさわらない。型のまま30分以上おき、生地が落ち着いてから8等分に切る。温かいうちでも食べられるが、切り口をきれいにしたいときは完全に冷ましてから切る。
温かいうちでも、冷ましてからでも食べられます。イタリア語版の Wikipedia は、リコッタや栗のはちみつを添えたり、ヴィン・サント(トスカーナの甘口のワイン)や、その年の新酒のワインと合わせたりするのがよいとしています。
料理科学:グルテンのない生地が固まるしくみ
よく混ぜても固くならない
小麦粉の生地は、水を加えて練ると、小麦のたんぱく質がつながってグルテン(弾力のある網目)を作ります。混ぜすぎると生地が固くなるのはそのためです。
栗粉はグルテンを作りません。栗のたんぱく質は小麦のような網目を作らず、量もスペインの大学の博士論文で分析した栗粉では6%ほどと少なめでした。そのため、泡立て器でしっかり混ぜても生地は固くなりません。ダマが残らないよう、手順5で遠慮なく混ぜてよいのはこのためです。
イタリアの料理メディア Dissapore は、栗粉はベタつきやすく、それだけで固まるので、小麦粉やコーンスターチを足す必要はないとしています。
固めるのはデンプン
栗粉のおよそ半分はデンプンです。ポルトガルとスペインの研究者の論文は、先行研究の値として、栗粉のデンプンを50〜60%としています。同じ論文で、栗粉を30%の濃さで水に溶いて温めると、60℃前後で糊化が始まり、73℃前後で糊化が終わりました。糊化とは、デンプンの粒が水を吸ってふくらみ、とろみのある状態になることです。加熱の温度を上げたり時間を長くしたりすると、できたゲル(ゼリーのような状態)はわずかに固くなりました。
カスタニャッチョには卵も膨張剤もありません。オーブンの中で、水に溶けたデンプンが糊化して、生地全体がもっちりと固まります。ふくらまないので、生地の厚さがそのまま仕上がりの厚さになります。薄く流せば縁がカリッとし、厚く流せばしっとりと重くなります。
冷めると締まる
糊化したデンプンは、冷めるにつれて分子どうしが寄り集まり、少しずつ固くなります。料理科学者のハロルド・マギーは、この変化をデンプンの老化として説明しています。焼きたては柔らかく、切ると断面がくずれやすいのですが、冷めると締まって切りやすくなります。Ricette dal Mondo や Il Cucchiaio d’Argento のレシピが、冷ましてから出すよう書いているのはそのためです。一方でアルトゥージは熱いうちに出すとし、トスカーナ州の観光公式サイトのレシピも温かくても冷めてもよいとしているので、どちらで食べてもかまいません。
料理科学:砂糖を入れなくても甘い理由
栗粉の2〜3割は糖
前に挙げた論文が先行研究から引く値では、栗粉には20〜32%の糖が含まれ、その多くはショ糖(砂糖と同じ成分)です。スペインの大学の博士論文で分析した栗粉では23.7%でした。この記事の栗粉230gには、おおよそ45〜75gの糖が入っている計算になります。砂糖を足さなくても甘いのはこのためです。
Dissapore は、栗粉はもともと甘いので、砂糖もはちみつも足さないよう勧めています。表面の焼き色と香ばしさには、糖とたんぱく質が熱で反応して色と香りを生む、メイラード反応がかかわっています。なお、スペインの大学の博士論文では、ショ糖を加えると、栗粉の生地が糊化する温度が高い方へずれました。
ローズマリーの香りは油に移す
マギーによると、ローズマリーなどのハーブの香りの成分の多くは、水より油に溶けやすい性質があります。手順2で油とローズマリーを弱火で温めるのは、香りを油に移して、生地全体に行き渡らせるためです。Dissapore のトスカーナ風のレシピも、この方法をとっています。
表面に回しかける油は、上にのせた松の実とローズマリーの葉を、油で焼くように香ばしくします。Dissapore は、油はたっぷり使うが、生地を油に浸すほどにはしないよう注意しています。熱すると油はすぐに温度が上がるので、手順2はごく弱火で行い、煙が出る前に火を止めてください。
地域による違い
イタリア語版の Wikipedia と Dissapore によると、トスカーナの中でも土地ごとに呼び名と厚さが違います。
- ルッカ:「トルタ・ディ・ネッチョ」と呼ばれ、厚めに焼きます。
- ルニジャーナ(トスカーナの北西の端):「パトーナ」「カスティニャ」と呼ばれる、ずっと薄いもの。
- リヴォルノ:高さ3cmほどで詰まったものを「トッポーネ」と呼びます。
- フィレンツェ:「ミリアッチョ」。フィレンツェの平野部では「ギリギオ」。
- アレッツォ:「バルディーノ」。
具や香りもさまざまです。トスカーナ州の観光公式サイトの2つのレシピはくるみを入れ、そのうちひとつはヴィン・サントを加えたぬるま湯でレーズンを戻しています。イタリア語版の Wikipedia は、オレンジの皮やフェンネルシードを加える土地もあるとしています。
砂糖を入れるレシピもあります。Il Cucchiaio d’Argento は栗粉300gに砂糖60g、Ricette dal Mondo は栗粉250gに砂糖20g(なくてもよい)を加えます。Il Cucchiaio d’Argento 自身も、伝統的なカスタニャッチョはあまり甘くなく、砂糖は比較的新しく入ったもので、どのレシピにも入るわけではないと書いています。
手に入りにくい材料の代用
栗粉
栗粉(イタリア語で farina di castagne)は、日本のスーパーではほとんど見かけません。製菓材料店やネット通販で、「栗粉」「チェスナッツフラワー」「farina di castagne」の名前で探します。
- 原材料が栗だけのものを選ぶ:「マロンパウダー」と名のつく商品には、砂糖や香料を加えた製菓用の粉もあります。原材料の欄が栗だけのものを選んでください。
- 片栗粉ではない:名前が似ていますが、片栗粉はじゃがいものデンプンで、栗とは関係ありません。
- マロンペーストや甘栗は代わりにならない:マロンペーストは砂糖を多く含み、甘栗は乾かしていないので水分が多く、この配合では固まり方も甘さも変わります。
- 小麦粉を混ぜない:栗粉が足りないからといって小麦粉で補うと、グルテンができて食感が変わります。Dissapore も、ほかの粉を足すのを失敗のひとつに挙げています。
- 色と香りは産地で違う:ガルファニャーナの栗粉は、白から濃いアイボリーまで色に幅があるとされています。粉によって水の吸い方が違うので、手順5で固さを見て、調整用の水で合わせます。
- 開封したら冷蔵庫へ:栗粉には脂質も少し含まれます(ポルトガルとスペインの研究者の論文で使った栗粉では約2.8%)。古くなると油が傷んで、いやなにおいや苦みが出ることがあります。開封後は密閉して冷蔵庫に入れ、早めに使い切ります。
そのほかの材料
- ローズマリー(生):乾燥ローズマリーでも作れます(Dissapore の別のレシピは乾燥のものを使っています)。手順2の油には乾燥ローズマリー小さじ1/2(約0.5g)を入れて温め、茶こしでこします。仕上げには小さじ1/2(約0.5g)を散らします。
- 松の実:大きめのスーパーや韓国食材店、製菓材料店で買えます。手に入らなければ、くるみを同じ重さ(生地に20g、仕上げに10g)粗く刻んで使います。トスカーナでもくるみを入れるレシピがあります。
- 型:直径20cmや22cmの丸型、18cm角の角型でも、同じ分量で焼けます。面積が1割前後変わるだけなので、生地が薄くなる大きい型では焼き時間を5分短めに、厚くなる小さい型では5分長めに見て、ひびと竹串で判断します。底が抜ける型は、生地が漏れるので使いません。
グルテンを含まない材料だけでできていますが、栗粉は小麦と同じ工場で作られていることがあります。小麦のアレルギーやセリアック病の人に出すときは、袋の表示で確かめてください。松の実とくるみもナッツ類なので、ナッツのアレルギーにも注意します。
失敗したときは
- 生地にダマが残る:粉をふるわなかったか、水を一度に入れたためです。粉をふるい、はじめは少ない水でペーストにしてから、残りを分けて加えます。残ったダマは、ざるでこして取ります。
- 中がべたっとして生っぽい:焼き時間が足りないか、水が多すぎたためです。焼きたてで切ったときも、断面がべたついて見えます。次は表面のひびと竹串で確かめ、冷ましてから切ります。
- 縁が固く、パサパサになった:焼きすぎか、型が大きすぎて生地が薄くなったためです。21cmより大きな型では、焼き時間を短めに見ます。
- 型にくっついて取れない:型に塗る油が足りなかったためです。型の底と側面にすきまなく塗ります。くっつきやすい型なら、底に丸く切ったクッキングシートを敷きます。
表面のひびは失敗ではありません。Il Cucchiaio d’Argento も、ひびはカスタニャッチョらしさのしるしだとしています。
保存
- 室温:冷めたらラップをかけて、涼しい場所で3日まで
- 冷蔵:部屋が暖かい季節は冷蔵庫に入れ、食べる前に室温に戻す
イタリアのほかのレシピ
もっと知りたい人へ
出典
- Dissapore「Castagnaccio alla toscana」(イタリア語)
- Dissapore「Castagnaccio」(イタリア語)
- Dissapore「Castagnaccio: errori da non fare」(イタリア語)
- Ricette dal Mondo「Castagnaccio, la ricetta tradizionale toscana」(イタリア語)
- Visit Tuscany「La ricetta del Castagnaccio」(イタリア語)
- Visit Tuscany「Castagnaccio recipe by Arturo Dori」(英語)
- Il Cucchiaio d'Argento「Castagnaccio」(イタリア語)
- Visit Tuscany「La Farina di Neccio della Garfagnana DOP」(イタリア語)
- Wikipedia「Castagnaccio」(イタリア語)
- Gambero Rosso「Che cos'è il castagnaccio, la mattonella dolce che riempie i forni di Roma (e dove mangiarlo)」(イタリア語)
- doppiozero「Castagno」(イタリア語)
- Food and Bioprocess Technology「Thermorheological and Textural Behaviour of Gluten-Free Gels Obtained from Chestnut and Rice Flours」(英語)
- Portal científico da Universidade de Vigo「Thermorheological characterization of gluten-free doughs from chestnut flour」(英語)
本文とレシピは、上の情報源を比べたうえで独自に組み立て直したものです。